東京地方裁判所 昭和37年(レ)354号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕被控訴人(原告)は昭和二七年七月一日控訴人(被告)に対し、本件土地二〇坪五合を、期間二〇年、賃料一坪当り一カ月一六円と定めて賃貸した。控訴人はその上に本件建物を所有して来たが、右賃貸借については昭和三五年七月五日付で土地賃貸借契約公正証書が作られ、その第二条には「賃借人は左の場合には催告なしに本契約を解除され賃借物の返還を請求されても異議を申し立てないこと。一、賃金の支払を怠つたとき。一、その他本契約に違背したとき。」と記載されている。ところで控訴人が昭和三五年八月一日から昭和三六年四月末日まで九カ月分の賃料支払を延滞したので、被控訴人は右特約条項に基いて、同年四月二五日着の書面で賃料不払を理由とする契約解除の意思表示をし、これによつて本件賃貸借契約は終了したとして、控訴人に対し本件建物を収去して本件土地の明渡を求めた。控訴人は、右特約条項は不動文字で印刷された例文で当事者を拘束するものではないから、本件契約解除は無効であると争う。
判決は、右公正証書第二条の記載は単なる例文とみるべき所以を次のように判示した。
曰く、
「ところで前記乙第一号証によると、この公正証書は、当事者、物件、日時、金額について書き入れるほかは、第二条をはじめとしてほとんどの条項が不動文字で印刷され、契約条項、特約等については一〇数項目にわたつて詳細な規定があり、一々これを検討するには相当時間を要すると考えられるが、控訴人本人尋問の結果によれば公正証書作成に際し、その条項の一々について控訴人に説明がなかつたことが認められる。のみならず、成立に争のない乙第三、四号証によれば公正証書の作成された昭和三五年七月五日当時本件賃料は一カ月金三二八円であることが認められるが、この僅かな賃料を控訴人が公正証書を作成した翌八月分から延滞していることから判断しても、公正証書作成に際し、第二条の特約について控訴人がこれを了承した事実はなかつたことがうかがわれる。この点に関する被控訴人本人の供述は採用しない。そうすれば公正証書第二条の条項は当事者間に合意のない単なる例文というべきであつて、公正証書に記載されてはいても当事者間にこれに相当する合意がない以上、この条項は効力を生ずる余地がない。従つて公正証書第二条を理由とする被控訴人の解除の意思表示は効力を生じない。」